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地域の課題をチームで取り組む

金沢市地域包括支援センターかすが
センター長
入職年:昭和63年

◆資格
社会福祉士、主任介護支援専門員、認定社会福祉士認証・認定機構登録スーパーバイザー、社会福祉士実習指導者、虐待対応専門研修アドバイザーコース修了、成年後見人材育成講習修了、認知症地域支援推進員研修修了

Interview

インタビュー

Q.橋さんは仁智会の創業当初からの職員として当法人を支えています。高齢者介護をめぐる制度の変革の波を乗り越えながら現在まで来た仁智会での仕事を通じて、印象に残るエピソードなどはありますか。

A.私の仁智会でのキャリアは老人保健施設の相談員からでした。主に入所などの利用相談の傍ら、大型バスを借り切っての外出やレクリエーション、家族会の創設などを手がけました。個別対応においてもまだ大らかな時代でしたので、「逆デイ」と称して日中だけ家に帰ることや、男性利用者の方の作業所など様々なトライをさせてもらいました。一方で、当時はご本人が十分な説明を受けずに入所される方が少なくなく、病気や障害をお持ちの方の権利について考えさせられる事がよくありました。一言でいえば権利擁護ですが、このことは職業人として私の背骨となっています。

介護保険制度導入の仕事が自信に

入職から5~6年目以降からは、職員研修や人事管理の一部、新規事業の立ち上げなども経験しました。こうした相談業務と企画管理の双方を経験できたことは、私の中で非常に大きな財産となりました。介護保険制度導入の準備の頃には、休日もほとんどとらず毎晩遅くまで働きました。深夜2時頃に県庁や市役所に電話すると普通に対応されていたのを思い出します。働き方改革を推進する現在ではアウト案件ではありますが、仕事に対して自信を持つことができた時期でした。またこの頃から専門職団体(石川県介護支援専門員協会など)の仕事もさせていただく機会が増え、ネットワークが大きく広がったように思います。

チームでリスク管理システム作りにも奔走

介護保険法施行からは軸足を在宅部門に移し居宅ケアマネジャーや在宅介護支援センターを担当すると共に、引き続き施設管理の一部を担わせていただきました。リスクマネジャーの役割では法人全体のリスク管理システムづくりを行いました。リスクマネジメントはチームで考え実行するプロセスにも重要な意味があり、その経験も大きな学びとなりました。

今は金沢市委託の地域包括支援センターの仕事に専念させてもらっています。医療福祉セクタだけでない住民団体や企業などのあらゆる社会資源とのチームづくりのみならず、個別の相談とその対応においても、これまで得た知識や経験や感じたこと考えたこと全てが血肉となっている、と改めて感じます。

Q.金沢市委託の地域包括支援センターでは現在どのような業務を行い、どのようなことに留意して仕事をされていますか。

A.地域包括支援センターはおおむね人口2~3万人のエリアに1カ所設置されています。金沢市では令和元年時点で19カ所あります。地域住民の心身の健康の保持と生活の安定のための支援を行い、保健医療の向上と福祉の増進を包括的に支援する機関です。

どんな相談も受け入れる

どのような相談でも受け付け、様々な機関や専門職と連携しながら支援を行います(総合相談支援)。そうした中で成年後見制度や虐待対応などの権利擁護や、ケアマネジャーのサポート、介護予防ケアマネジメントや予防事業の一部運営などを行っています。

地域包括支援センターは、地域包括ケアシステムの推進で重要な位置づけをされており、個別課題の解決や地域課題の抽出、対応、地域ケア会議の開催も担っています。これらは一体的に行われ、地域共生社会の実現にむけた基礎となるものです。

当センターは金沢市北部の鳴和中学校区を担当しています。担当エリアを眺めても地域的な特徴や課題はさまざまです。小学校区では浅野地区、森山地区、夕日寺地区となります。金沢駅に近いエリアでは商業施設や医療資源が充実しており、アパート等で暮らされる高齢者もおられます。一方、住民福祉活動に長い歴史をもちながらも高齢化が進むエリア、山間部に位置し商業施設や医療資源へのアクセスに課題があるエリアなどもあります。

そんな中当センターは、商業施設内のテナントとして事務所を構えています。場所の分かりやすさや交通の利便性、何かのついでに立ち寄れることは、大きな特徴であって担当エリアの市民の皆様にもメリットになっています。「つどるーむ」と称した多目的スペースもあり、会議等のみならず市民の自発的な活動の拠点としても利用されています。

Q.地域の高齢者や障がい者を支えるために力を入れていることはありますか。

介護予防教室、金沢市内一多く開催

A.当センターは、介護予防教室の開催が市内で一番多いセンターです。これは大まかに分けて2種類あり、ひとつは地域団体さん(地区社会福祉協議会や地区民生委員児童委員協議会)で開催される教室の支援、もうひとつはそれらに依らない住民の方の自発的なグループ活動創設や運営のサポートです。いずれにしても、単に参加するためのプログラムを提供するのではなく、仕組みづくりや運営なども住民の方々自らが活動できる場づくりの支援を心がけています。

地域の様々な機関や人達の日常的な連携はとても重要です。最近ではさまざまな機関の方々とプロジェクトチームをつくり、一緒に映画上映を行ったり、どんな方でも参加できる「ふらっとカフェ」なども手掛けています。ふらっとカフェに関しては、高齢の方のみならず、こどもや障害のある方どんな人でも参加できる場をつくりたいとの方向性をチームで共有しています。

社会とのつながりの薄い方の支援を長い目で

今、取り組みを始めているのは、高齢者となる前の年齢層も含めた社会とのつながりの薄い方々の支援を、他機関との連携で支援するスキームを作ることです。誰かとのつながりはその方の力そのものと考えています。それが年齢や病気や障害やトラウマなどでできない事があります。経済状態や家族関係などにも影響されます。

例えば高齢の方の支援で関わった際に、その方だけでなく、同居のお子さんも若い頃からほとんど働いた事がなく、親子とも周囲とのつながりがほとんどない事があります。交流の機会のためにデイサービスをお勧めするといった単純な事柄ではありません。制度供給の切り口でも、医療・福祉・介護・経済支援・法律支援・就業支援など多方面になり、また親族や近隣地域などの制度ではない資源も必要になります。つまり複数の機関による支援ネットワークです。

また、ひとり暮らしでこの地区に引っ越してきてアパートなどに住まわれ、民政委員さんや近所の方もよく知らない方も増え続けています。そうした方の殆どは差し迫った困りごとがない状態だと考えていますが、一方でいわゆる孤立死となって初めて知った場合も何度もあります。「ちょっと助けてほしい」と言える先、言える関係がないとその声は発信されず、キャッチが難しくなります。

今後は、ネットを活用した繋がりや生活の利便性も確実に重要さを増していきます。デジタルデバイドが生活格差に大きな影響を持つようになり、これも重要だと考えています。今50歳や60歳の方々は10年後20年後には高齢者となります。今70歳の方はいずれ80歳や90歳になります。人口減少社会を迎え社会保障制度が厳しい方向に向かうからこそ、予防的な仕組みを含め、多方向での連携が重要になると考えています。当センターだけでなく、地域包括支援センター連絡会を通じて金沢市への提言も行っています。

年を重ねるごとに勉強すべき事柄が増え続けていますが、なかなか対応できていません。それと同時に、僅かではありますが、今まで得てきた知識や技術を次の世代にお渡ししていかねばと強く感じています。所属するセンター内はもちろん、他の部署や他の機関の方々も含む多くの方々へです。

一人ひとりの方の困りごとや地域の課題に対して、最も適した様々な人や組織でチームを構成し、またチーム作りの支え手となって、さらに地域の課題に取り組んでいきたいと思っています。